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東京地方裁判所 平成4年(ワ)22403号 判決

主文

一  被告らは原告に対し、各自金九五〇万三九五〇円及び内金九三二万四七三八円に対する平成三年一〇月二三日から支払済みまで年一八・二五パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

理由

一  請求原因について

請求原因事実は全て当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  本件所有地について、原告が広栄観光から、平成元年九月二九日付で大洋観光を債務者とする極度額四五億円の根抵当権の設定を受け、更に平成二年八月八日、譲渡担保を原因として所有権移転登記を経たこと、原告の右根抵当権に基づく競売申立により、平成四年一〇月三〇日、同日付競売開始決定に基づく差押登記がされたことは当事者間に争いがない。そして、《証拠略》によれば、広栄観光は、未だ本件ゴルフ場の改修工事に着工しておらず、現地は荒れ果てた原野の状態にあること、被告会社は、平成三年一〇月一日、広栄観光に対し、本件入会契約を債務不履行を原因として解除する旨の意思表示をなし、右意思表示が同月二日広栄観光に到達した事実が認められるところ、被告らは、右解除したことをもって、原告の被告らに対する本件消費貸借契約に基づく貸金請求を拒絶する旨主張する。

しかし、預託金会員組織ゴルフ会員権の購入を希望する者が、ゴルフ場を経営する会社(以下「ゴルフ会社」という。)と提携している金融業者から融資を受けて右会員権を購入した場合、ゴルフ倶楽部入会契約あるいは会員権売買契約(以下「会員権購入契約」という。)と金銭消費貸借契約とは別個の契約であるから、両契約が経済的、実質的に密接な関係にあることは否定できないとしても、購入者が会員権購入契約上生じている事由をもって当然に金融業者に対抗することはできないというべきである。昭和五九年法律第四九号による改正後の割賦販売法三〇条の四第一項の規定は、同法が購入者保護の観点から、購入者において割賦購入あっせん関係販売業者に対して生じている事由を割賦購入あっせん業者に対抗し得ることを規定しているが、これは右規定により特別に認められたものにほかならないから、本件のように右規定が適用されないゴルフ会員権である場合には、購入者がゴルフ会社との間の会員権購入契約をゴルフ会社の債務不履行を原因として解除したときであっても、購入者と金融業者との間の金銭消費貸借契約において、かかる場合には購入者が金融業者の履行請求を拒みうる旨の特別の合意があるとき、又は金融業者においてゴルフ会社の右不履行に至るべき事情を知り若しくは知りうべきでありながら融資を実行したなど右不履行の結果を金融業者に帰せしめるのを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り、購入者が右解除をもって金融業者の履行請求を拒むことはできないものと解するのが相当である(最高裁平成二年二月二〇日第三小法廷判決・判例時報一三五四号七六頁)。

2  本件において、購入者がゴルフ会社との間の会員権購入契約をゴルフ会社の債務不履行を原因として解除した場合に、購入者が金融業者の履行請求を拒みうる旨の特別の合意があることについては、その主張・立証はない。そこで、前示特段の事情があるかどうかについて検討することとする。

(一)  被告会社が広栄観光との間において本件入会契約を締結し、会員資格預託金の内一〇〇〇万円を本件消費貸借契約による貸金で支払ったこと、原告と広栄観光との間において、広栄観光が販売する本件ゴルフ場会員権の入会申込者に対し、原告が「飯塚国際ゴルフクラブ購入ローン」と称するローンを組んで右購入資金を融資する内容の業務提携がされていたこと、本件消費貸借契約も右提携ローンによるものであること、本件提携ローンは本件ゴルフ場の入会契約を前提とし、購入者は本件提携ローンによる金銭を本件ゴルフ場会員権の預託金の払込み以外に使用することはできないとされていたこと、本件消費貸借契約の具体的な手続は神征国土建設の臼井によってなされたこと、原告は大洋観光に対し融資した二五億円以上の貸金の弁済原資として、本件ゴルフ場の会員権販売代金を予定していたこと、原告が役員の沢田明幸を広栄観光の取締役として派遣したことは当事者間に争いがない。

(二)  右争いのない事実及び《証拠略》によると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) (原告の大洋観光に対する融資)

原告(旧商号・不動産ローンセンター)は、貸金を業とするいわゆるノンバンクであり、その株式は店頭登録により公開されている。大洋観光は、不動産賃貸・ビジネスホテル経営等を業とする会社であり、金融業者である株式会社アイチ(以下「アイチ」という。)から借り入れた資金で広栄観光の全株式を買収し、本件ゴルフ場の経営権を取得した。

大洋観光は、平成元年七月ころ、原告に対し、右アイチからの借入れを金利の低い原告からの融資に借り換え、本件ゴルフ場を改修してパブリックコースから会員制のコースにする資金及び運転資金等を調達するために融資を申し込み、その返済は本件ゴルフ場の会員権購入者からの預託金をもってすることを申し入れた。そこで、原告は、株式会社帝国データバンクに大洋観光の信用調査を依頼したところ、同社の所有不動産は、グループ会社も含めて時価一〇〇億円に上る一方、信用程度の総合評価は「多少注意を要する、資金調達が今後の課題であるが従来の新規事業には計画倒れな点があったので成り行きを注視する必要がある。」との調査報告がなされた。原告は、右調査結果のほか、広栄観光から交付を受けた事業概況、財務諸表、代表者個人の資産及び経歴等についての書面や、改修工事の図面及び改修後のコース運営についての事業計画書等をもとに、同社から説明を受けたり、被告従業員が現地調査を行い、さらに、九州地区のゴルフ会員権の売買取引例をも調査した結果、本件ゴルフ場の価値を総額約三八億円と評価し、大洋観光及び広栄観光の右事業計画に不安はなく、大洋観光の申出に応じることは可能と判断するに至った。そして、原告は、平成元年九月二九日、右報告、説明及び現地調査の結果等に基づき内部決裁を終え、大洋観光に対し金二五億円の融資を実行し、大洋観光及び広栄観光の代表者信貴久治らとの間で連帯保証契約を締結するとともに、広栄観光から本件所有地につき極度額四五億円の根抵当権の設定を受けた。右二五億円の内金二〇億円はアイチへの債務の返済資金として、残金五億円は大洋観光グループの運転資金として融資された。

原告が大洋観光に融資を開始した時点では、本件ゴルフ場の借地部分買収時に追加融資が必要で、同追加融資分として五億円を予定していたのみであったが、その後、原告は大洋観光に対し、平成二年一月二五日に大洋観光グループの運転資金として金二億〇五〇〇万円、同月二九日にアイチに対する債務の返済資金等として金一〇億円、同年二月六日に大洋観光グループの運転資金として金八億二〇〇〇万円、同年四月二〇日に右借地部分の買収のため金二億円、同年五月一五日に金一億八〇〇〇万円、平成三年五月二四日に金三一二〇万円をそれぞれ貸し渡した。この間、原告は、本件所有地について、平成二年六月、アイチを根抵当権者とする根抵当権設定登記がなされたため、前記のとおり、同年八月八日、譲渡担保を原因として所有権移転登記を経たが、これにつき、大洋観光は原告に対し、アイチの右根抵当権設定登記は、以前同社に交付していた書面を利用して、同社が勝手にしたものと説明していた。

なお、大洋観光は、平成三年五月ころ、手形不渡りを出して倒産した。原告が大洋観光から右各貸金債務の返済を受けたのは同年二月五日が最終であり、右貸金残額は、平成五年六月当時で約三五億四八四五万円余である。

(2) (本件ゴルフ場の状態及び改修計画)

本件ゴルフ場は、平成元年七、八月にはパブリックコースとして、一月当たり二〇〇〇~三〇〇〇人が入場してプレーをしており、平成三年二月に改修工事のためとの理由で閉鎖されるまでは営業が続けられていた。本件ゴルフ場の改修計画は、全体としては既存の用地が四四万八〇〇〇平方メートルであるところ、九三〇〇平方メートルを追加し、改修される部分の面積はコース、クラブハウス及び進入道路を全て含めて二万七九七〇平方メートルの規模であった。また、平成元年七月の段階では、クラブハウス新築費用に一〇億円、用地買収及びコース改修費用合計で一〇億円の費用を見込んでおり、平成元年八月にはコース改修工事を、同年一〇月にはクラブハウス新築工事をそれぞれ開始する予定であった。

(3) (広栄観光らと神征国土建設との間の会員権募集委託契約)

大洋観光及び広栄観光は、平成二年三月二八日、神征国土建設との間において、本件ゴルフ場の会員権募集を委託する旨の契約を締結したが、委託手数料は、平成元年七月当時の計画書では募集価格の一〇パーセントであったところ、右契約においては二五パーセントと約定された。

(4) (原告と広栄観光らとの間のローン提携契約)

原告は、同年五月二三日、広栄観光らとの間において、本件ゴルフ場の会員権の購入者に対し、原告がその購入資金を融資する内容の本件提携ローン契約を締結したが、広栄観光らと神征国土建設との間の募集委託契約が締結される以前から本件提携ローン契約を締結する予定であった。右提携ローンにおいては、原告の購入者に対する融資金を、原告が購入者の依頼に基づき、同人名義で直接広栄観光の銀行預金口座に振り込み入金する方法がとられており(本件消費貸借契約も同様であった。)、右預金口座は原告が通帳・印鑑を所持し管理していた。原告は、本件会員権購入者と総額約一七億円の提携ローンを組んだが、その内約一〇億円を右預金口座から引き出し回収した。また、原告は、広栄観光の印刷した発行前に係る預り保証金証書用紙を保管し、必要に応じ同会社に交付していた。

原告が、以上のように、広栄観光名義の預金口座を管理したり、預り保証金証書用紙を保管したほか、原告の役員を広栄観光の取締役に派遣したのは、原告の大洋観光に対する貸金の回収を確保するためであり、原告は、大洋観光及び広栄観光の経営そのものには関与することはなかった。

3  (検討)

(一)  以上認定の事実によれば、原告と広栄観光との間には、会員権販売について本件提携ローンの業務提携がなされ、原告は、本件提携ローンの融資金が振り込まれる広栄観光の預金口座を管理したり、預り保証金証書用紙を保管し、原告の役員を広栄観光の取締役に派遣するなどの関係があり、かつ、原告は、広栄観光の親会社である大洋観光に対し、多額の金銭を貸し付けた債権者として、大洋観光及び広栄観光の本件ゴルフ場改修工事計画における資金状況及び改修工事の進捗状況につき、会員権を購入した被告らよりも容易に知り得る立場にあったということができる。

(二)  しかしながら、原告は、平成元年九月に大洋観光に対する融資を開始するに際し、同会社グループの信用調査及び本件ゴルフ場の改修による事業計画の調査等を行い、右信用調査においていくらかの不安要素の指摘はあったものの、大洋観光の保有資産及び本件ゴルフ場改修に係る事業計画等から、同社に対する融資が可能と判断したが、いわゆるノンバンクの貸出先は、都市銀行の対象とする貸出先に比し、信用度において若干劣ることは公知の事実であって、右調査結果やそれに基づく原告の判断が格別不自然であると窺わせる事情は見当たらない。そして、原告は、被告らに対する本件提携ローンを実行する以前から、大洋観光に対し貸金債権を有する債権者にすぎず、広栄観光名義の預金口座を管理したり、預り保証金証書用紙を保管し、また、原告の役員を広栄観光の取締役に派遣したのも、本件所有地に対する根抵当権設定登記及び譲渡担保を原因とする所有権移転登記を経由したのと同様、原告の大洋観光に対する右貸金の回収を確保するためであり、原告は、右目的を超えて大洋観光及び広栄観光の経営そのものには関与することはなかったことは前示認定のとおりである。以上の事実と、原告は、本件ゴルフ場の改修工事計画の詳細まで把握していたものではないが、改修工事の規模は前記の程度にとどまるものであり、アイチへの返済分を除いても、原告からの融資金のかなりの額が大洋観光に渡っていること、本件ゴルフ場は平成三年二月まで、パブリックコースとしてであれ、現実に営業されていたこと、原告は本件所有地につき、譲渡担保を理由とする所有権移転登記を経由しているが、これは、被告に対する本件消費貸借がなされた以後であることに照らすと、原告において、広栄観光による本件ゴルフ場の改修工事が不履行に至るべき事情を知り若しくは知り得べきであったのに、被告に対する本件消費貸借を実行したものということはできない。したがって、原告と広栄観光との間に前示のような経済的、実質的に密接な関係があることは否定し得ないとしても、それだけでは、広栄観光の債務不履行の結果を原告に帰せしめるのを信義則上相当とする特段の事情があるときには当たらないものというべきである。そして、他に右特段の事情を認めるに足る証拠はない。

三  結論

以上のとおりであるから、原告の請求はいずれも正当としてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長野益三 裁判官 林 圭介 裁判官 小田正二)

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